今こそ『根っこ』を育てる子育てを

人間の子どもは、他の動物に比べ非常に未熟で、柔軟な存在で生まれてきます。だからこそヒトの子どもが人間になるうえで乳幼児期は可塑性に富んだ重要で独自な時期だといえます。植物は、根から育ち始め、根が自力で水分や養分をすいあげるようになるまで、発芽しません。しかし、目に見えない土の中で根は着実に成長していて、しばらくすると芽を出し、葉をつけ、やがて実を実らせていく。「命あるすべてのものには育つ順番がある」ということですが、乳幼児期とは、ちょうどこの目に見えない「根」を地中に伸ばす時期といえます。長い人生の「根っこ」を、じっくりと豊かに育てたいものです。

では、乳幼児期に「根」を伸ばすとはどういうことでしょうか。私たちは、まず、五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)を発達させ感性を豊かに育てることだと考えています。快と感じるか不快と感じるか、安心と感じるか不安と感じるか、野に咲く小さな花に春の息吹を感じ、落ち葉を踏む音からも冬の訪れを感じる。四季の移り変わりを豊かに感じる感性や、目と目を合わせて人と気持ちを通わせ情報や感情を交流するのも五感の力です。それと同時に、バランスのよい身体を育てることが大切です。運動不足による身体の硬さ筋力の弱さは、気持ちの固さでもあり、身体を動かす脳の発達の未熟さの現れでもあります。全身をバランスよく動かし、仲間と一緒に夢中で遊びきった子どもは、好奇心旺盛に物事に集中して取り組むことができるようになります。その体験が自分の力を信じる心をも育んでいきます。

脳の発達にとって遊んで育つ乳幼児期の重要性については脳神経の専門医や研究者からも指摘されています。人間の脳の前頭前野は、「脳の司令塔」と呼ばれる部分で、思考や記憶、感情を制御する部分です。その神経細胞をつなげる神経回路(シナプス)は生まれた直後に急激に増えて、5~6歳までにピークに達し、その後は減少して20歳頃に大人と同じ数になるといわれています。シナプスの数を減らす(刈り込む)ことで脳を効率よく働かせることができるのです。重要なことは、この時期に強い刺激(早期教育やテレビ、パソコンゲームなど)を浴び続けると無駄なシナプスの刈り込みができなくなるので強い刺激を与えないよう子どもを育てる必要があるということです。

また、大脳の活動には「興奮させる力(夢中になって遊ぶ)」と、それを「抑止する力(ブレーキをかける)」の二つの力があってそのバランスによって自分の活動をコントロールしています。大脳を正常に発達させるには、乳幼児から10歳くらいまでは興奮する力を育てること、1つのことに熱中して、1日中それにくいついて離れないくらいに興奮を持続する力を子どもに育てることが大切です。さらに、脳の抑止する力は、興奮する力が発達するにつれて強まって、10歳くらいまでに、遊びの中で興奮する力をつけた子ども達は、その頃から自分の力で自分の活動をコントロールするための抑止の力が育ってくるというのです。反対に夢中になって遊んだ経験の乏しい子は、抑止の力が弱く、いったん興奮すると抑えが利かず、ちょっとしたことでキレたり泣きやまない、友達に殴りかかるなど、脳の持つ抑止力が育ちにくいのです。

乳幼児期、学童期に友達と我を忘れて、全身で人や自然とかかわり、熱中して遊ぶ経験が健やかに子どもの脳を発達させていきます。この時期にこそ運動神経と感覚器官をしっかり育て、バランスのとれた発達を保障することをめざさなければならないと力説しています。(広木克行:神戸大学名誉教授・小西行郎:日本赤ちゃん学会理事長・正木健雄:日本体育大学名誉教授)

子ども達は、「おもしろい」「やってみたい」という自らの好奇心と意欲を発達の支えに、能動的な体験を通して感覚神経と運動神経を育てていきます。その豊かな「根っこ」を土台にして、文字や記号などの抽象的な思考ができるようになり学校教育へと進んでいけるのです。人間の一生という長い人生航路を希望をもって生き抜いていくバイタリティーは、自然の中で仲間とともに遊びぬく子ども時代にこそ養われる「根っこ」なのではないでしょうか。

子どもは「育つ力」を内に秘めています。今こそ子ども達の生活を見直し「根っこを育てることの意味」をご一緒に考えてみませんか。

2013年3月27日

はじめに

2015年1月28日

もみの木保育園の紹介